コの字型のサウナ。
その中心に、僕はいた。
汗だくの男たちが沈黙の中でじっと耐える、あの戦場である。

ふと目の前。
「あれ…？あれって、○○さんじゃない？」
裸眼の僕、曇った視界と汗まみれの相手の顔。どうにも確信が持てない。

でも気になる。モヤモヤする。
サウナの熱よりこの疑問のほうがアツい。
勇気を出して聞いた

「…○○さん、ですか？」

すると、相手がゆっくりこちらを見て、

「違います。」

一言、バッサリ。
間違えた。めっちゃ違った。
その瞬間、サウナの温度が3度上がった気がした。いや、たぶん気のせいじゃない。

その後の5分間。
誰も喋らない、誰も動かない。
だが確かにそこにあったのは、“サウナ勝負”

「先に出たら負け」

そういう無言のルールが、空気に溶け込んでいた。

目の前の“○○さんじゃない人”と僕。
どちらもギリギリの表情。
もうアチアチで限界。でも出られない。

結局、僕が耐えきれずに先に出るとき、
その人の目が言っていた。

「勝ったな」