写メ投稿
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2025-10-14
ギルドと鎖と、天使の悪魔
子供の頃
家の屋根裏には倉庫のスペースがあった天井に鍵を差すと
カタンと音がして
階段が現れる子供の僕がしゃがんで
やっと歩けるくらいの高さそこにおもちゃを置いて
遊んでいた家の中に湿った風が吹く日は
その屋根裏に逃げ込んだ天井裏のスペースは
避難所でもあり
牢獄のようでもあった――時は流れて
僕は会社員として働いていた
理不尽な上司
不条理なルール
飲み込まれていく日々ただ成果を出すために
動くようになっていた優しさや理想を守るために
感情を殺し
言いたいことを飲み込んだそして心の奥に
別の“戦う自分”を作った他人を傷つけたくないからこそ
生まれたその人格は
いつの間にか
僕の心を閉じ込める檻になっていた――実は僕は
ギルドを作って
ある敵と戦っていたその敵は
可愛らしい女の子の姿をしていただが凶悪で
僕たちに死の攻撃を仕掛けてくる倒しても倒しても
何度でも現れるまるで
クローンのように彼女は満月の夜にだけ現れた
僕たちは彼女を
“アザゼル”と呼んだギルドの集合場所は洞窟の中
僕たちはそこで武器を作り
戦い続けていたギルドのメンバーは
このアザゼルに狙われ
戦い、逃げながら
いつの間にか集結した仲間たちだった戦えば戦うほど
アザゼルは狂暴になっていった終わりが見えなかった
それでも戦うしかなかった――満月の夜
洞窟の奥で足音が響いた
僕は息を潜めて呟いた「……来た、アザゼルだ」
空気が裂けるように震え
洞窟全体に凶悪なオーラが広がった
背筋が凍る
今回は違う、と直感した次の瞬間
アザゼルが凄まじい勢いで突進してきた爆音が轟き
光がはじけ
岩が砕ける
仲間の叫びが反響して
洞窟全体が悲鳴を上げた残った仲間で
ありったけの武器を放った閃光が連続し
耳鳴りの中で
アザゼルはたまらず崩れ落ちたその瞬間
僕は息をのんだ崩れゆく彼女の顔が
“天使”のようだったからだその姿に
僕は動揺したあの凶悪な光を放っていた彼女が
まるで天使のように
祈るような姿で
穏やかに目を閉じていたその時
微かな声が聞こえた「洞窟の奥に行って――」
それは
崩れ落ちたアザゼルの唇から
かすかにこぼれた声だった――僕たちは進んだ
暗闇を突き進み
狭い通路を抜けるやがて
光が差す大きな空間に出たそこで見た光景に
僕たちは息をのんだ岩の中央で
アザゼルが鎖に縛られていた腕と足を冷たい鎖が絡みつき
彼女の身体を地へ縫い止めていた「なぜ…アザゼルが」
誰も言葉を発せなかったその時
背後から音がした振り返ると
何十人もの凶悪なアザゼルたちが
闇の奥から姿を現した絶体絶命
僕は鎖に縛られたアザゼルを見つめた
その顔は
天使のように穏やかだったその瞬間、気づいた
「彼女は……僕たちと同じなんだ」
誰も傷つけたくないからこそ
“戦う人格”を別に作った僕たちは
彼女の鎖に手を伸ばした重い金属音が響き
鎖がほどけていく
その瞬間――洞窟が閃光で包まれた
眩い光が天へと吹き上がり
凶悪なアザゼルたちが
“天使のアザゼル”に吸い込まれていくその光は
怒りも恐れも呑み込み
すべてを静寂に変えていった叫びと祈りが混ざり合い
光はひとつの形に還ったアザゼルは
天使でも悪魔でもない
ただの女の子に戻ったその姿を見て
僕たちの中の“戦う天使”も
静かに消えていった――ギルドは屋根裏の倉庫のようだった
人が心の奥に作る避難所
傷ついたとき
そこに閉じこもって自分を守るけれど
誰かを救うために戻るとき
そこはもう牢獄ではなく
祈りの場所になる自分を守るために作った壁が
いつの間にか檻になるその檻を壊すのは
戦うことではなく
分かり合うこと
受け入れること湿った風が止み
屋根裏の階段が
静かに元の場所へ戻っていく僕は鍵を握りしめたまま
しばらく天井を見上げていた


