写メ投稿
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2025-10-04
ショベルカーと意識と、奪われた名前
子供の頃
空き地に錆びたショベルカーが放置されていた今では考えられないけれど
僕はそれに乗ることができた強そうなものに乗ると
まるでその力が自分に乗り移り
自分まで強くなった気がした巨大なロボットにまたがるようで
胸が高鳴った――時は流れ
僕は会社員となり
学歴も肩書も眩しい人々に囲まれた大きな仕事を任されても
心の奥では
不完全な自分を隠すために
虚勢ばかり張っていた今日も知っている単語を並べて
やりきった感と喪失感を同時に抱き
出口の見えない迷路を歩いていたけれど僕には
ひとつの秘密があった数秒だけ
他人の意識に入り込むことができる
その目に映る景色や
考えを盗み見ることができた僕は「Aegis(イージス)」という組織に所属していた
能力を悪用しようとする者を防ぐ
それが僕の役割だった敵対するのは「Dominus(ドミナス)」
能力者を資源としか見ず
徹底的に研究し
兵器として量産することを目的とする
冷酷な組織だったその日も
街を歩いていると
ドス黒い意識が
微かに空気に触れた視線の先
そこにはまだ若い女性がいた
高校生くらいだろうか僕は能力を発動し
彼女の意識に入り込む意識の奥から流れ込む情報――
彼女は“ボマー”
自爆の能力者だったさらに深く潜る
背筋に寒気が走る彼女は見上げたそのビルを
自爆で破壊しようとしていたよく見ると周囲には
仲間らしき影が数人いた
そのひとりの意識に触れると
彼女が脅され
爆破を強制されていることがわかった「こいつらDominusだ」
僕は呟いた彼女を止めなければ――
直感が告げる
強く入り込めば
能力を抑えられるかもしれない僕は強く念じた
その瞬間
彼女の体が光を放ち
爆発が起きた轟音が耳をつんざき
火花が散り
ガラスが一斉に砕け落ちる建物全体が崩れるのではと錯覚したが
破壊されたのは一階部分だけだった「パワーが足りない、なぜだ!」
Dominusの連中たちが叫ぶ僕は気付いた
彼女の能力を奪い
半減させていたことに彼女を救いたかった
その思いが
僕の能力を極限まで目覚めさせた僕の能力は
意識に入り込むだけではなく
相手の能力そのものを奪うことが出来る力に
変化していた僕は強烈に念じた
空気が震え
風が嵐のように渦を巻く
稲妻が駆け抜けるような衝撃が走りDominusの能力者たちは次々と吹き飛んだ
その瞬間――
僕は彼らの力を“奪った”抵抗する意識を
無理やり引きはがし
掌で掴み取るように
自分の中へ引きずり込んだ彼らの能力が
彼らの記憶が
奔流のように流れ込む力を失った彼らは
能力を失い混乱して
蜘蛛の子を散らすように逃げ去った僕は倒れそうになりながら
彼女を見た身体は震えていたが
かろうじて、生きていた安堵が胸を満たした瞬間
視界が暗転し
僕は意識を手放した――気付くと
見知らぬ街を歩いていた自分の名前が思い出せない
あの夜、Dominusから奪ったすべての力と意識が
僕の中に入り込み
自分が誰かわからなくなっていたでも僕は
本当の自分に戻れるとわかっていたあの時、彼女を救いたいと思った心は
能力や力の強さではないただ純粋に
今までの人生を歩んできた
自分の心だったから


