写メ投稿
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2025-10-03
ラジオと未練と、光の学園
子供の頃
学校が終わると連れて行かれたのは
親の知り合いの家東大出の野球選手になれと
空き地でバットを振らされ
間違えば往復びんたテレビを見た記憶はほとんどなく
友達の話題にもついていけなかった楽しいはずの時間に
楽しい記憶は消えていた
死後の学園にいるようだった唯一の救いは
寝る前に耳を澄ませた
ラジオの音楽だけ――大人になって
会社では歯車のひとつとなり
反発を恐れて
痛みのない毎日を繰り返していたけれど子供の頃の未練を忘れられず
仕事終わりに通い続けた学校があった
夢を抱えた人々が集う場所
そこに触れていたかったある日
音楽を聴きながら帰路につき
背後の車に気づかず
間一髪でかわした地面に倒れ込み
傷は浅かったが
心には影が落ちていた――翌日、学校の景色は変わっていた
校舎はどこか歪み
記憶と違う輪郭をしていた
教室に入ると生徒は数人しかおらず
奇妙な静けさが漂っていたやがて教壇には
見知らぬ、天使のように美しい若い女性が立っていた「未練が残っているのは
あなたたちだけね」その声と同時に
女性の手には長剣が現れ
鋭い光を放ちながら振り下ろされた床を裂く衝撃
仲間の叫び声
僕たちはバラバラに逃げた次々と倒れていく仲間たち
息も絶え絶えに走り
教室に駆け込み
壁に背を預ける目を閉じて、開けると
そこに立っていたのは天使
長剣をこちらに向けていた「未練があるのは
もうあなただけのようね」刹那
頭に閃く光景
――車の衝突音
僕はあの時、確かにひかれた
ここは死後の世界なのだと背後に崩れ落ちると
そこにはあのラジオがあった
寄りかかりながら
僕は呟いた「やっと思い出した
自分のやりたかったことを」天使に向かって叫ぶ
「戻らせてくれ!」天使は静かに頷き
長剣を振り下ろす
刃は優しい光となり
僕を包み込んだ――目を開けると
病院のベッドの上だった
車にひかれ
生死を彷徨っていたらしい子供のころから
僕は周囲の基準で生きてきた
けれど寄りかかっていたのは
いつもラジオから流れる音楽だった優しく
時には激しく流れる音は
未練を抱えた人生を肯定し
僕自身の物語を
静かに紡ぎ始めていたその音楽は
これからも僕に寄り添い
まだ見ぬ物語を
光のように照らしていた


