写メ投稿
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2025-09-23
雨音と影と、崖の向こう
子供の頃
雨の日に歩いたどぶ川のほとり
覗き込んだ瞬間、足を滑らせ
隣にいた影と共に川へと呑まれた濁流に必死で藻掻きながら
偶然通りかかった大人に引き上げられ
助かった安堵と、まとわりつくどぶ川の臭い家に戻り体を洗い流しながら
あの時、後ろから蹴られたことは
言わないでおこうと決めた蹴落としたその人は
今は風の噂で大変な状況になっているようだ――大人になってからも、
同じ光景は繰り返された
深夜も早朝も身を削り
積み上げた大きな仕事を
上司の一言で奪われる「後はA君が引き継ぐ」
背中に走るあの感覚
蹴落とされる痛みと重なっていたその日、僕とAは
重大な機密を託されていた
国家を揺るがすほどの情報を収めた
マイクロチップを顧客に届ける任務についた僕とAは護身用の拳銃を携え、
僕は靴下にグラップリングガンを忍ばせていた
(壁や天井にフックを撃ち リールで身を引き寄せる移動の銃)
子供の頃の記憶が形を変えて
それは僕のお守りになっていた送迎車に揺られながら
Aは薄ら笑いを浮かべる
「お前の手柄をもらって悪いな」
僕は無言で窓の外を見つめた後ろから黒塗りの車が尾行して来た
嫌な予感がする
僕とAは警戒する黒塗り車はじわりと距離を詰め
やがて速度を上げて鋭く切り込んできた激しい衝撃が送迎車を叩き
車は制御を失って回転し始める窓ガラスが砕け
金属の悲鳴が辺りにこだまする
車はガードレールに激しく叩きつけられて停止した衝撃で運転手は動かなくなった
黒塗りの車から武装したエージェントが降り立つプロの動きで僕らは素早く押さえつけられ
銃口から催涙の噴霧が吹きかけられる視界が溶け
意識は闇に沈んでいった目を覚ますと
雨に煙る滝の崖の上
手を縛られ 銃も奪われていた
エージェントは笑いながら告げる
「そいつを突き落とせば助けてやる」震えるAの姿に
一瞬「消えても困らない」と
よぎる黒い衝動
だが僕は走り出し
その背を抱きかかえ
共に滝へと飛び込んだ靴下から引き抜いたグラップリングガンを
咄嗟に放つ
岩肌に突き刺さり
ワイヤーに宙づりになって
激流を背に二人で降りていく「……ありがとう」
震える声を聞きながら
僕は低く呟いた
「蹴落とす者は いつか自分も蹴落とされる」雨音にかき消されながら
上ではエージェントの混乱する声が響く
僕らは森の影に紛れ
静かに逃げ延びた――その後、僕は全てを手放した
もう振り返っても
蹴落とす者はどこにもいない
広がる空の下
自由という宇宙を
ただ飛んでいるのだから
風が背中を押し、未だ見ぬ季節へと向かう
静かな朝を胸に抱えて