写メ投稿
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2025-09-10
逆立ちと蒸気と、青い空
学校の体育の時間
逆立ち歩きのテストがあった僕は二歩で倒れ
「全然ダメだな」と言われ
笑い声が耳に突き刺さった本当は上手くやりたかった
けれどその声に
心は押し潰された──時が流れ
都内の巨大な建物で
僕は機械のメンテナンスをしていた作業員十人ほどで集まる朝礼
厳しいリーダーの声が響く
「長いだけで意味の無い朝礼」
そう心で呟く終わると同僚のAが近寄ってきた
「相変わらず冴えない奴だな」
Aは嫌な奴で 悪い噂が絶えなかった
けれど 偉い人の息子というだけで
誰も逆らえない存在だった僕は愛想笑いを浮かべ
作業場へと歩いて行った狭い配管の通路を
身体をすり抜けるように進んでいく
蒸気の匂いが充満し
鉄の響きが耳を打つその先にある蒸気配管の部屋
30メートル先に並ぶバルブは
少しでも操作のスピードを誤れば
圧力が一気に配管にかかり
鉄を裂き 蒸気が噴き出す
大事故に直結する危険な場所だった実はその危険な部屋で
僕は子供のころ出来なかった逆立ちを
こっそり練習していた何かに逆らうように
ただ上手くやってみたいと思った
それがきっかけだった扉からバルブまで
逆立ちで歩けるようになった時
胸の奥にかすかな誇りが灯った──ある日
また蒸気バルブの操作をするため
その部屋へと向かった扉を入った瞬間
人の気配がした
気付かれないよう身を潜めて移動するそこにはAが居た
手元には拳銃がずらりと並んでいた思わず工具を落とした
乾いた音が床に響く「誰だ!」
Aが叫び 銃を構える
「見たら生かしておく訳にはいかない」次の瞬間
弾丸が両足を撃ち抜いた
激痛に悲鳴を上げ
膝から崩れ落ちる歩けなくなった僕を見下ろし
Aは冷たく言った
「ここで待ってろ。お前の処分を決めてくる」
そう吐き捨てて部屋を出て行った血が広がり
蒸気の音だけが響くこのままでは殺される
逃げるには…バルブしかない
両足を奪われた僕が
そこに辿り着く方法は
逆立ちしかなかった30メートル先
遠すぎる距離を
腕に全ての力を込め
血を滴らせながら進んだバルブに手が届いた瞬間
扉が開き
Aが仲間を連れて戻ってきた「どこだ!」
「ここだ!」Aが走り寄る
僕は力の限り バルブを回した蒸気が唸りを上げ
圧力が配管にかかり
鉄が悲鳴をあげる轟音と共に配管が裂け
白熱の蒸気が牙を剥いた奔流はA達を襲い
その勢いで柵の向こうへ吹き飛ばした──後にA達は 拳銃の密売の容疑で逮捕され
僕は会社を去った最後に僕を救ったのは
他人に押し付けられたものではなく
努力して得た「自分の好きなこと」だった世界を逆立ちして見れば
空は いつでも青いその青さは
笑い声にかき消されることなく
僕の選んだ道を
果てしなく広げていった