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  • 2025-09-02

    SLと少女と、宇宙の心臓

    スーパーノヴァとは
    星が寿命を迎える時に起こす“宇宙最大の爆発”
    ひとつの星が砕け散り
    その光と衝撃は銀河を揺らし
    全てを破壊するほどのエネルギーを
    宇宙に解き放つ現象のこと

    ──子供の頃
    近くの大きな公園には「SL広場」があった
    黒い蒸気機関車と
    宇宙へ繋がるようなU字型の造形物
    遅い時間まで一人で遊ぶ僕を
    少し年上の女の子が心配して
    手を引いて家まで送ってくれた
    その手の中にはいつも
    光るように甘い飴玉があった

    大人になって
    僕は「儀式」と呼ぶ旅を始めた
    嫌な想い出の場所に足を運び
    それを良い記憶に書き換える
    過去の傷を消せば
    もっと強く前に進めると思ったからだ
    だがその儀式は
    心のエネルギーを激しく削るものでもあった

    そんな日々の傍ら
    僕は宇宙センターで働いていた
    不安定な恒星を観測し
    地球への影響を調査する仕事
    最近、風が強い
    毎日嵐のように吹き荒れるその風を
    誰もが異常気象と片づけていた

    ──ある日
    最も嫌な記憶の地に立ち
    いつもの儀式を終えた後
    あのSL広場へと歩いていった
    その瞬間、宇宙センターから電話が鳴る
    「恒星が寿命を迎え、今日にもスーパーノヴァが発生する可能性がある」
    僕は呟いた
    「この嵐は……恒星から放たれた粒子の嵐
    宇宙風が地球に届いていたのか」
    スマホがけたたましく鳴り響き
    地上の電子機器は狂い始めた
    地球を破壊する光が迫っていた

    振り返ると──あの女の子がいた
    手を取り、僕をSLへと導く
    轟音とともに鉄の巨体は動き出し
    煙を吐きながら夜空を駆け上がる
    999のように宙を舞い
    U字型の造形物へ突っ込む
    視界が闇に塗りつぶされ
    気付くと僕は恒星の中心に立っていた

    核は黒く沈み、死にかけていた
    女の子はポケットから飴玉を取り出し
    次々と光の珠を核へ投げ入れる
    刹那、崩れかけた心臓が脈動し
    まばゆい光が爆ぜる
    死にゆく星に命が吹き返った
    その光景を最後に
    僕の意識は闇に沈んだ

    ──目を開けると
    SL広場の地面に大の字で横たわっていた
    女の子の姿はなく
    ただ夜風だけが胸を撫でていく

    僕はいつの間にか
    偽りの光にすがり
    本当の光を見失っていたのだろう
    過去の痛みは
    消し去るものではなく
    今を輝かせるための光に変わる

    胸の奥に吹く風は
    かつての嵐とは違う
    それは自由の空へ連れていく風
    ──そして僕は歩き出す
    あの日もらった飴玉の光を
    未来の灯りに変えながら