写メ投稿
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2025-08-31
狂王とフロッピーディスクと、自由の物語
グーグルマップもない時代
知り合いから買ったおんぼろの50CCのバイクを走らせ
A君の家まで行った二人でパソコンの前に座り
作っていたのは
「狂王」が世界を滅ぼし
勇者がそれを阻むという
よくあるストーリーのゲームだった完成しないまま
卒業の日が来て
A君とも会わなくなり
データだけが
古いフロッピーディスクの中に眠った──大人になって
満員電車に揺られ会社へ向かう
頭の中では
「自由になる物語」を描いていたが
それはあのゲームのように
完成する気配を見せなかった地方への出張
古びた電車に長く揺られ
顧客に神経をすり減らし
疲れ果てた帰り道
再びその電車に乗り込むまどろみの果て
目を覚ますと
電車は駅に停まり
乗客の姿は消えていた外に出た瞬間
轟音と共に街が光で裂けた
空に浮かぶ「狂王」
その口から放たれる光線が
建物を砕き、人々を焼き尽くす
地獄の風景の中
僕は山道へと必死に走った光線が背後を掠め
爆風が身体を吹き飛ばす
転がるように進む途中
道端にバイクがあった
「僕の50CCだ…」
息を呑み、跨り
光を避けながら山を駆け上がる辿り着いたのは
山の頂のA君の家
玄関は開いていて
中にはあのパソコンがあった
フロッピーディスクを抜き取った瞬間
狂王は悲鳴と共に崩れ落ち
夜の闇に消えた気を失い
気づけば再び電車の中
「夢か…」
そう呟いたが
ポケットの中には
あのフロッピーディスクが入っていた──翌日から僕は
頭の中に止まっていた数式を
現実のディスクに上書きしていった
未完成の物語を完成させるためにマップのない暗闇の道を
おんぼろのバイクで走らせながら
自由のストーリーを描いていくいつかこの物語が
誰かの胸で点灯する時
「狂王」によって封じられた
過去の世界は塗り替えられ
新しい地図が
確かに描かれていくのだろう