写メ投稿
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2025-08-21
箱舟と雨と、アーチを描いた棚
アルバート・アインシュタインは言った
「想像できることが未来を創る」と──子供の頃
自分の部屋で段ボールの箱舟を作った
完成させるのが楽しみで
胸を高鳴らせて帰宅すると
そこには大きな本棚が置かれていた箱舟は押し潰され
本棚の後ろに追いやられていた
立派な棚に並んだのは
漫画本ばかり
やがて漫画本は重さに耐えられず
棚ごと歪んでしまい
なぜか怒られて、半分以上捨てられた机の上にはびっしりと貼られた
勉強のスケジュール表
僕の心と棚は同じように
アーチを描いたまま
箱舟は闇に隠れた──時は流れ
試験会場に座る僕がいた
国家資格はこれでいくつ目だろう
手応えはある、だが
手応えのない虚しさが残る
読んでいる本といえば
ほとんどが試験用の参考書だった空想の世界は役に立たない
お金にもならない
そう言い聞かせながら──仕事の現場
大型物件の構造調査
屋上から地下へと降りていき
最後の危険な作業にあたる
誤れば一気に水が流れ込み
地下は溺死の棺となる指示を出す僕のトランシーバーが不調をきたす
次の瞬間、防壁扉が作動
怒涛のような水が流れ込む
「間違って押しやがった!」
叫んだ時にはもう遅い
轟音と共に水が押し寄せ
空気は薄れ
視界が闇に沈んでいった──気づくと
僕は外に立っていた
空から豪雨が降り注ぎ
川は氾濫し
足元を飲み込もうとしていた「ここは……山のふもと?」
必死に駆け上がる
頂上には一軒の家が見えた
「僕の実家だ……」扉を開けると
そこには見覚えのある本棚があった
立ち尽くした僕の脳裏に
ひとつの記憶が蘇る
──本棚の後ろに
段ボールの箱舟があるはずだ子供の頃は動かせなかった棚
全身で押すと
軋む音と共にわずかに動いた
そこに、確かに箱舟はあった豪雨の中、外へと持ち出す
絶対に沈むはずの段ボールの舟
だが僕が乗り込んだ瞬間
箱舟は光に包まれ
近代的な巨大な船へと変貌した激流を切り裂き
山を滑り降り
水飛沫と轟音の中を突き抜けていく
僕の身体は再び気を失った──目を開けると
サプライヤーたちが僕を囲んでいた
「生きててよかった」
どうやら僕は地下の高い鉄筋にしがみつき
奇跡的に水を免れたらしい
普通の人間じゃ到底登れない高さ
皆が驚いていたあの時の箱舟は幻だったのか
それとも本当に未来から来た船だったのかひとつだけ確かに言えるのは
僕は再び漫画やアニメを手に取ったこと
まだ名もない物語を始めるためには
誰も思いつかない想像をして
それを形にすることが必要だと
あの箱舟が教えてくれたからだ──想像できることが未来を創る
それはアインシュタインの言葉であり
そして今の僕の、生きる物語でもある