写メ投稿
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2025-07-31
ポッキーとピラミッドと、風のある場所
空地の砂の丘で
3対10の喧嘩がはじまったランドセルを放り投げて、帰り道がたまたま同じだった3人組
そのうちの1人が
ガタイのいいリーダー格に引きずられそうになった僕は反射的に走り出し
そのリーダーに馬乗りになって
殴りかかったでも拳は
ぬるりと力を逃していった
何度打っても、響かないリーダーは静かに立ち上がって言った
「お前、なかなか勇気あるね」僕はもう終わった、と思った
震える手の中で
その言葉だけがやけに柔らかく残ったリーダーは黙って仲間を連れて帰っていった
翌日、僕が助けた相手は
何事もなかったように僕を素通りした「なんで……?」
誰も答えてはくれなかった
職場でも同じだった
身体の弱い女性が
毎日のように、からかわれていた「気持ち悪いよな」
そんな言葉が
同僚たちの口から簡単にこぼれる僕は
見て見ぬふりをしていたある朝──
彼女が、会社前の道で転んでいた僕は思わず声をかけた
「大丈夫?」
肩を貸して、彼女を立ち上がらせた「私って、嫌われてるのかな……」
彼女はそう言って、号泣した
「そんなこと、ないよ」
そう答えながら事務所に付き添うと
中で笑い声が待っていた「え?付き合ってんの?」
僕は言った
「いい加減にしなよ」空気が凍った
昼休み
彼女がポッキーとドライバーをくれたそれは
僕にとっての、たったひとつの“肯定”だった午後、僕は
嫌がらせのように
この職場で一番やりたくない仕事を命じられた排気塔の内部点検
高さは7メートル
命綱なし
一人で作業今の時代に、こんなやり方があるか?
でも
それがこの職場だった梯子を使って排気塔の中を降りていく
鉄の匂いと、熱い空気
足が震え、喉が焼けるようだった下から──
ギィ……ギィ……と何かを引きずる音がした振り返ると
ピラミッド型の頭を持つ
巨大で醜悪な化け物が
四つ足で、壁を這い上がってくるその勢いで
梯子が外れる
僕の体は、宙づりになった冷たい鉄の感触
握力が限界を超えていく落ちれば、死ぬ
そのとき
壁の点検口が、一瞬だけ光ったポケットの中に──
あのドライバーがあった僕は必死に点検口をこじ開け、滑り込んだ
化け物が点検口に手を伸ばしてくる
狭い空間で僕は
ドライバーを振りかざし──突き刺した化け物は呻き声を上げ、落下していった
あとで知った
あの排気塔には
点検口なんて、そもそも存在していなかった僕は決意した
この場所から離れる誰かの築いた巨大なピラミッドの中で
上を見上げながら
熱と怒号と嫉妬で満たされるよりもたとえ
石を一つ一つ自分で積む人生でもその上で感じる風のほうが
ずっと自由で、
ずっと心地よかったから