写メ投稿
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2025-07-29
約束と溺れる街と、あの日の改札
暑い夏の日
駅の出入口で、僕は立っていた「ここで待ってろ」
そう言い残して
父はいつも、しばらく戻ってこなかったあとで知った
あの時間、父は
僕を置いてパチンコに行っていたらしい誰かに見られるのが恥ずかしくて
声をかけられるのも嫌で
僕はただ、無言で立っていた外は晴れていたけど
心の中では、ずっと台風が吹いていたその日もまた
優しい誰かが声をかけてくれた「どうしたの、大丈夫?」
「今はまだ無理かもしれないけど……」
「待つんじゃなくて、自分で選んで、本当に必要な人に会いに行くの」そう言って、そっと
切符を僕の手に渡してくれた顔をあげると
そこにはもう、誰もいなかった今日、僕は
田舎の物件での会議に向かっていた同行するのは、苦手な同僚
上司に命じられて組まされた関係だ「今日は台風らしいですね」
彼の言葉に曖昧に頷いて
“選べないのは仕方ない”と、自分に言い聞かせる電車の窓から見える風景が
だんだん緑に飲まれていく
まるで都会の記憶を、誰かが消していくみたいに会議は終わり
帰りはひとり降り立ったのは
小さくて古びた駅
改札は昔のように、切符を入れるタイプだった3時間に1本の電車を待つ
空模様が怪しい風が鳴る
川が溢れる
道が水に呑まれていく逃げ道だった細い道も
音もなく、水に沈んでいった足元まで
濁った水が満ちてきてもう、どこにも行けない──
そう思ったその瞬間雷鳴が響き、空が裂けた
視界が一瞬、真っ暗になるそして目の前に──改札があった
僕はポケットを探る
そこには、あの日の切符が残っていた迷わず、それを差し込む
扉の向こうで
僕は、あの日の駅に立っていたそして
昔の“待っていた僕”が、そこにいた僕は静かに近づき、
何も言わずに、ぎゅっと抱きしめた「もう、待たなくていい」
「自分の心に従って旅をすれば
本当に必要な人に、ちゃんと会える」その言葉は
自分自身に向けたものだった気がつくと
僕はまた、あの駅にいたさっきまでの水は引き
台風は通り過ぎていた空には、晴れ間が広がっていた
あの日から
僕は、誰かが決めた道ではなく
自分で選ぶ旅に出ることにした誰かの言葉を待つのではなく
自分の意志で踏み出すことを選んだそれが
険しくても楽しいということをようやく、知ったから