写メ投稿
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2025-07-29
霧と三角と、階段の向こう
「自分には何もない」
そう思って、ベッドに横たわっていたラジオから流れる音楽だけが
唯一の外との接点だった階段までの距離が遠い
降りた先に未来がないような気がしてそれでも、
ほんの少し、自分を信じて
階段を下りたその先には
濃い霧の世界が広がっていた努力はしていた
でも何も変わらなかった
霧は晴れず
時だけが、ただ過ぎていったあの頃
僕は現場の問題対応のため
始発で、海沿いのライブハウスへ向かう日々を送っていたまだ誰もいない早朝
裏方の仕事を作業員と共に進めるライブの残骸で
床はベタベタに汚れている
階段が異様に多く、息が切れる倉庫には
三角の形をした奇妙な物体がいつも置かれていた
まるで、頭のような──不穏な何かやがて偉そうな人間たちが出勤してくる
「まだ終わってないのか」怒号と疲労のなかで
海と空の狭間を飛ぶように
本社へと戻っていく毎日がその繰り返し
努力しても
誰も見ていない
誰も認めてくれない目の前の霧は、さらに深くなっていった
ある日──
作業中に
突然、全照明が消えた静寂が崩れる
何かを引きずる音が、背後から迫る振り向くと
あの三角頭が
巨大な人間の姿になって
錆びた大剣を振りかざしていた僕は走った
逃げた
作業員たちはどこにもいない館内は、霧で包まれていた
べたつく床が足をとらえる
逃げ道がわからない転んだ
すぐ後ろで、鉄が床を裂く音
間一髪でかわす──そのとき、気づいた
階段が、ない
あの日の階段を下りたときの霧を思い出したそして
気づいたんだ努力をすれば報われると信じていた
でも、それは
「誰にでもできる安全な道」への努力だった苦しいけど、正しそうに見える道
そこには、本当の自分の目的地なんてなかった僕は立ち上がって
三角頭に向かって言った「もう大丈夫
方向は、見えた」三角頭はその言葉に反応し
自らの剣を、自分に向けて突き刺した霧が震えた
音が消えたそして──
彼の姿は消えたその瞬間、目の前に
階段が現れた霧が晴れ、先が見える
光が射す霧が晴れた世界では
頭上に、いつも太陽がある僕の中には
誰かが描いた常識という霧を
切り裂く剣があるあの日、怖くて降りられなかった階段
今なら──その先へ行ける物語は続いていく
選んだ方向へ
自分の足で、はっきりと