写メ投稿
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2025-07-11
秘密基地と鍵と、進撃の戦士
巨大な壁の向こうには、
何があるんだろう。
考えるだけ、無駄なのか──当時の僕は、都会の中心で働いていた。
始発電車が通るホームを横目に、
旅行者のような大きな荷物を背負って。
カバンの中は、書類とPCでパンパンだった。でも、僕には“地下の秘密基地”があった。
自分が管理する物件の地下室に作った、
誰にも干渉されない、僕だけの空間。そこは、静かで快適だった。
仕事はすべて自分で組み立てて動かしていた。
チームがやるような規模のプロジェクトも、
一人で完結させるような日々。
効率化と改善が好きだったから、
やり方を変えては業務を楽にしていった。たまに応援に来てくれる
かわいい部下の女の子と、
ふたりでコンビニのカフェラテを片手に、
小さなテーブルを囲んで雑談する。
そんな時間が、ちょっとした癒しだった。誰にも迷惑をかけず、成果も出していた。
けれど──
その「自由な働き方」は、
上の人たちの“正しさ”には、そぐわなかったらしい。突然、秘密基地は禁止された。
無意味な報告業務と、
顔色をうかがうだけの朝礼が始まった。
「これが社会ってもんだよ」
同僚は笑って言ったけれど、
僕は笑えなかった。閉ざされた地下室で、
僕は荷物の整理をしていた。
ロッカーを開けると、
今までに見たことのない鍵が出てきた。そのとき、どこからか声がした。
──むかし、自由を求めて壁を越えた戦士がいる
彼らのことを“進撃の──”声は途中で途切れた。
僕はその鍵をポケットにしまい、
“太陽を背に”、秘密基地を後にした。壁の向こうに行くには、
巨大な敵を倒し、あの海を越えなければならない。
いまの僕では、まだ足りない。ふと思い出した。
母から昔、こんなことを言われたことがある。
「お前の顔は、
一族でいちばん自由を求めたあの人に似ている」家にあった、鍵のかかった古い机。
もしかして──
あの鍵で開くかもしれない。カチリ。
開いた引き出しの中には、
僕が子どもの頃に描いた漫画が入っていた。
空を自由に飛ぶ、主人公の姿。その瞬間、僕の身体に
空間を駆ける装置と、大剣が現れた。壁の向こうには、巨大な“あれ”がいる。
その額に剣を突き刺さない限り、前には進めない。空を駆け上がる。
太陽を背に、
その巨大な手が襲いかかる。避けきれない。
一度は弾き飛ばされたけど、
もう一度、陽光を味方に跳ぶ。その目が、まぶしさに眩んだ一瞬、
僕は全力で眉間へ突き刺した。巨人は崩れ落ちた。
その奥には、
見たことのない海が広がっていた。あのとき僕が掴んだのは、
剣なんかじゃなかった。
ずっと手放したと思っていた「自由」そのものだった。いま僕は、
その海を越え、自由を求めて進む仲間たちと、
太陽を胸に抱いて進んでいる。あの日のように、空を見上げながら──
進撃は、続いている。