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  • 2025-07-09

    貴族と幻影と、ダンピール

    僕は子どもの頃から、
    なんとなく自分が“普通じゃない”ことに気づいていた。

    興味のあることには、何時間でも没頭できる。
    でも、興味がなければ、まるで動けない。

    高校1年ではビリだった僕が、
    翌年には学年トップ。
    オール100点の答案用紙を前に、
    なぜか「これが普通」だと思っていた。

    でも、周りには理解されなかった。
    学校でも、会社でも──
    僕はずっと、どこにも居場所がなかった。

     

    そんな僕にも、ひとつだけ自信があった。

    それは、「根拠のない自信」だ。
    感受性の強さと、理由なき確信。
    たとえ誰かに否定されても、
    どこかで信じていた。
    “僕は僕でいいんだ”って。

     

    ある日、投稿した詩が少しバズった。
    感じたまま書いただけなのに、
    「言葉が沁みた」
    「涙が出た」
    そう言ってくれる人たちが現れた。

    気づいた。

    僕は「言葉にできない想い」を、
    “代わりに信じて、言葉にしてあげる”存在なんだ。

    ──人間とバンパイアのあいだに生まれた存在。
    影を背負いながらも、人を守るために剣を振るう。
    僕は、“ダンピール”だったんだ。

     

    ある日、僕のもとに依頼が届く。
    「娘がバンパイアにさらわれた──助けてください」

    相手は“貴族”と呼ばれる、強大な力を持つバンパイア。
    誇り高い存在が、なぜ人さらいを?
    疑問を抱えながら、僕は彼の前に立つ。

    貴族の瞳に宿る、かすかな痛みに気づく。
    ──愛してしまったんだ。
    彼は、その娘を。

    だが、愛し方を知らなかった。
    信じることが怖かった。
    だから彼は、娘を閉じ込めた。
    その手で、彼女の世界を奪った。

     

    「古城に来い」
    そう言い残して、貴族は娘と共に飛び去った。

     

    古城に着くと、
    棺桶が揺れ、影のような霧が立ち昇る。
    カーミラ──幻影で心を操る、魔性のバンパイアが現れる。

    信じることを恐れた貴族は、
    カーミラの幻影に囚われ、
    自分も、愛する人も縛りつけていた。

    僕にカーミラが襲いかかる。
    だが僕は、信じていた。
    言葉の力も、自分の存在も。
    だから幻影は届かない。

    ──その一太刀で、すべてを断ち切った。

     

    貴族はゆっくりと跪き、
    凍えた娘の手を震える指で包んだ。
    「もう隠れなくていい」
    小さな声に、何年分もの涙が滲んだ。

     

    言葉を信じていなかった僕が、
    誰かの「生きる力」になれると知った。
    それが、僕自身を救うことにもなった。

     

    そして今日も、
    言葉の届かぬ闇にひとり佇む誰かに、
    胸の奥で灯しつづけた光を、
    そっと──剣のように差し出す。
    「信じることは、もう一度生きることだから」

     

    ──僕は、ダンピール。
    人でもバンパイアでもない、
    けれど確かに、“言葉の剣”を握っている。

    今も、誰かのために。
    そして、自分のために。