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写メ投稿

  • 2025-07-03

    瞬間移動と廃墟と、自由の下で

    また気づくと、見知らぬ場所にいた。
    最近──
    意識がふっと抜けて、
    いつの間にか、どこかに立っていることがある。

     

    仕事は順調だった。
    会社を変え、プロジェクトのリーダーを任された。
    構造も契約も、仕組みも人も、
    すべてを掌握していた。
    「いつでも、なんでもやります」
    そう言って、飲み会でも上司のご機嫌をとっていた。
    休みなんてなかった。
    でも、そういうものだと思っていた。

     

    ある日、
    髪を束ねた姿が知的で、
    笑うと目元がふわりとほどける
    綺麗な新入社員がやってきた。

    彼女と一緒に現場をまわり、契約に必要な資料を作り、
    帰りにごはんを食べるようになった。

    一人で走ってきた僕の毎日が、
    少しずつ、彩りを帯びていった。

     

    そしてあの日──
    新規契約に向けた調査で、
    内装がすべて剥がされ、廃墟のようになったビルへ向かった。

    僕は1階、彼女は6階から建物全体の状況を確認していた。

    突如、頭上から照明が落ちてきて、
    視界が白く弾けた。

    ──次の瞬間、僕は6階にいた。
    彼女の目の前に立っていた。

    「……え? 1階にいたんじゃないんですか?」

     

    どうやら僕は、
    命の危機と“何かの衝撃”を同時に感じると、
    場所を瞬時に移動できるらしい。

    その確信が残るまま、数日後──
    会社から辞令が届いた。
    彼女との同行は終わり、
    役職もすべて外され、
    別の地域への異動が決まった。

    上司には笑って伝えた。
    「大丈夫です。もっと頑張ります」

    あの日以来、
    心のどこかが、抜け落ちたままだった。

     

    深夜、
    あのビルから呼び出しがかかる。
    機械トラブルらしい。

    僕は地下へ向かい、
    原因箇所と思われるマンホールの中へ──

    ──その蓋が、何者かの手によって
    “重く、確かに”閉められた。

     

    真っ暗な空間。
    薄れていく酸素。
    誰にも届かない声。
    天井に伸ばした手。

    僕は思い出していた。
    あのとき、僕を救った“二つの条件”。

    生命の危機、
    そしてスピードを持って迫る何か──

     

    その時、かすかに聴こえてきた。
    水が流れる音。

    このビルの地下には、
    巨大な水槽がある──そんな話を思い出した。

    僕は壁伝いに水音のほうへ進み、
    視界の先に、青く湿った鉄の塊が現れる。

    両手で足場を探り、
    滑りそうな管を頼りに、
    必死にその縁までよじ登った。

    10メートル以上はあったかもしれない。

    僕は立った。
    足が震えていた。
    でも、やるしかなかった。

     

    ──飛んだ。

     

    次の瞬間、
    土砂降りの雨の中、僕は外にいた。

    息ができた。
    自由の空気が、肺を満たした。

     

    3日後、
    新しい職場の上司に頭を下げた。

    「これから、よろしくお願いします。
    ──3か月後に辞めますが。」

     

    今、僕は
    “自由”という空の下を歩いている。

    瞬間移動は、もう使えない。
    でも、わかってるんだ。

    あの闇の中で、
    僕はようやく知った。

    明日が見えない夜ほど、
    人は静かに立ち止まってしまう。

    でも、
    あの一歩がなければ、
    僕はまだ、あの暗闇にいたままだった。

     

    ──夢は、
    勇気より少し先にある。