写メ投稿
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2025-06-25
古の記憶と欲望と、バベルの塔
サークルの仲間たちと
会社帰りに作品を作っていた日々。
その中にいた、予測不可能な彼女。まっすぐで、自由で、
自分だけの世界を生きていた人。サークルはいつしか自然消滅して、
僕も日々の仕事に埋もれていった。そんなある日、
彼女から突然の連絡。
「会いたいの」彼女は経営者になっていた。
都内で再会した僕たち。
彼女はふと、こんなことを言った。「AIでは測れない本質ってあるのよ。
真っすぐな心は、絶対に真似できない。」なぜかその言葉が、
心に深く焼き付いた。僕はNEO東京にある
天まで届きそうな超高層ビルで働いていた。
通称──「バベルの塔」。
72階建ての、伝説と噂に満ちた場所。開発者は10年前に忽然と姿を消し、
今は汚職企業の手に渡っていた。ある日、66階で異変が起きた。
建物を支える回転装置が停止し、
軋むような音とともに、塔がわずかに傾いた。
誰かの悲鳴と、揺れる足元。警備ロボが暴走を始め、
塔は制御を失っていった。“僕だけが”無事だった。
ちょうどそのとき、66階で単独作業していた。
皮肉にも──塔の心臓に、いちばん近い場所で。館内放送で、命令が下る。
「66階の“何か”が頭脳を狂わせている。
それを破壊せよ。」探索の末、僕が見つけたのは、
空中に浮かぶ“開発者の亡骸”。
その身体は配線とつながれ、
バベルの塔に封じられた**“古の記憶”**のようだった。僕が近づくと、
無数のケーブルが襲いかかる。逃げても、避けても、
AIが僕の動きを予測してくる。血まみれになり、
もうダメかと目を閉じたとき、
彼女の声が蘇った。「真っすぐな心は、絶対に真似できない。」
僕は“ただ前に”歩いた。
予測不能なその一歩に、
AIは対応できなかった。そのまま、工具を突き刺す。
塔の中枢は沈黙し、
世界が、静かに戻った。次の日の朝、
ビル風に吹かれながら会社へ向かい、
僕は上司に辞表を差し出した。あの言葉を、
自分の中で風化させたくなかった。真っすぐな心に従って、
もう一度、世界を選び直したかった。欲望と自由の“光”は、
あの日から、僕の中で消えていなかった。