写メ投稿
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2025-06-20
夢のロープとピエロと、飛べないフェアリー
風に乗って現れたのは、
まるで絵本の中から抜け出してきた女の子だった。3歳児のような笑顔と、
透き通った羽を背負った、
だけど――飛べないフェアリー。彼女がいたのは、
楽園のようなストーリーを描いた本の、その外側。
誰かが描いた、一本だけのロープの上を、
ひとりで渡る毎日。落ちたら終わり。
だけど、進む先も見えない。
それでも歩く。
それしか選べなかったから。そんな彼女の前に、
冴えないピエロが現れた。
夢しか描けない道化の男。彼は言った。
「ねえ、君が渡ってきたロープ、
少し狭すぎないか?」彼はもう一本のロープを張った。
それは、夢でできていた。
不安定かもしれないけど、
渡るのは、なぜか怖くなかった。彼女はゆっくりと目を開いた。
羽が揺れた。
けれどまだ飛べない。それでも、
ピエロの描いた夢の上なら、歩いてみたいと思えた。彼女の目から、呪いが静かに溶けていく。
ずっと飲み込んでいた言葉が、少しずつこぼれ出す。「今夜は……夢に、辿り着きたい」
その声を聞いた瞬間、
彼は彼女を抱きしめた。その肩越しに見えた羽は、
透明に揺れて、
少しだけ光を帯びていた。絵空事みたいな笑顔だった。
でも、その笑顔はたしかに今、目の前にあった。きっと今夜、
彼女は辿り着ける。
“誰かの物語”ではなく、
“自分の楽園”へ。