写メ投稿
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2025-06-13
ワックスとチョコレートと、破れた地図の端っこ
破れた地図の端っこで
道を見失っていた頃、
僕は休みもなく時間を売っていた。土日、
ビルのフロアにワックスをかけ、
無言の床に反射する自分と目が合った。そんな毎日だった。
いつも同じ匂い、同じ動き。
でも、
そこにひとつだけ違う風が吹いていた。同じくらいの歳の
かわいらしい女性。
いつも黙々と作業していたけど、
僕はある日、昼食に誘ってみた。まさか、来るなんて思わなかった。
でも、彼女は「ぜひ」と笑ってくれた。それから、
昼休みの時間が少しだけあたたかくなった。
外で会って、
おしゃれなレストランに行くこともあった。
清掃バイトの合間の、
小さな“旅”のような時間。でもある日、ふと疑問が湧いた。
自分の時間を、
ほんの少しの「安心」と引き換えにしていいのか、
そんな疑問が胸に残った。もっと、自分の時間を
自由に使っていいんじゃないか?そう思って、
僕はバイトを辞めることを決めた。最後の日、
彼女を都内のレストランに誘った。僕が辞めると告げると、
彼女はポケットからチョコレートを取り出した。
まるで、全部を知っていたみたいに。夜は深まり、少し飲みすぎて
駅までの道を彼女が支えてくれた。改札の前で、
僕たちは立ち止まった。時間がふっと止まったようだった。
そして、キスをした。彼女の表情に浮かんだ
嬉しさと、少しの悲しさ。
たぶん、僕も同じ顔をしていたんだろう。「またね」
その言葉を残して、
僕たちは別々の電車に乗った。破れた地図でも、
歩き出せば、足元に道が生まれる。
その先に、いつか光が射すと信じた。