写メ投稿
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2025-06-10
花とコンクリートと、撮りかけの写真
何もない日々だった。
ただ、何かを変えたくて
朝が来れば 会社へ
夜になれば コンクリートの箱の中
意味もなく身体を追い込んで
傷つけることで 自分の存在を感じていた。誰にも頼らず
誰にも頼られず
進んでも進んでも 心は乾いていくばかりだった。それでもやめなかった。
季節が変わっても 変わらずに通い続けた。
そんなある日——
彼女は現れた。自由をそのまま切り取ったような人。
やりたいことはやる
やりたくないことはやらない
笑って、風のように僕の世界に入ってきた。その笑顔は、咲き始めた花のように
心の奥をふいに照らした。花を撮るのが好きで、
その瞬間を切り取ることが、彼女の自由のかたちだった。
写真展に誘われた日、僕はまだ、そこへ行く勇気がなかった。羨ましかった。
あの頃の僕は
自由なんて 触れたこともなかったから。それでも彼女は、
静かな瞳の奥に、誰も知らないほどの知性と責任を抱えていた。驚きとともに、僕は自分を見つめなおした。
しばらくして
彼女は来なくなった。僕は決めた。
ここを出よう、と。
不自由を脱いで
自由へ向かって歩き出すと決めた。久しぶりに、彼女に連絡をした。
変わらない笑顔。
でも、彼女はもうすぐ結婚すると言った。
胸の奥に 小さな波紋が広がった。帰り際、ふいに彼女が言った。
「あのとき、ほんとは好きだった」
そして
キスをした。それで、すべてだった。
終電を逃して、僕は夜の街をさまよった。
偶然見つけた、小さなバー。
やさしい灯りと 静かな音楽に包まれて
朝まで、ただ心をあたためていた。バッグの中に
彼女と一緒に写っていた撮りかけの写真があった。
ピントが甘くて
でも、笑顔だけがやけに鮮明だった。何もないはずの日々から
すこしずつ、変化が始まっていた。人は 出会い
別れ
失い
また手に入れそして僕は
いま、ここにいる。