写メ投稿
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2025-06-06
海底とネジと、バミューダトライアングル
この間まで——
まぶたを閉じても、すました顔の彼女しか出てこなかった。いつも、あんなに笑っていたのに。
なぜだろう、
笑い声だけは耳に残ってるのに、
顔はすまし顔のまま、浮かんでこなかった。無理に思い出そうとしても、
ほんの一瞬、
かすかな微笑みがよぎるだけ。あの空気、あの時間。
あの目線の高さに戻るには、
とても深く、集中しなければならなかった。このまま、
深い海底に潜ってしまうのだろうか——
そんな不安を打ち消すように、
僕は、空想の旅に出た。笑顔を取り戻すために、
僕は“機械の身体”を手に入れた。
すべてを飲み込むバミューダ・トライアングルに向かって、
巨大なポセイドンに立ち向かった。笑顔を奪ったその強大な存在に、
ひとりで戦いを挑む僕。
機械の腕で海を裂き、
目の奥の海底都市を照らし出す。激しい戦いの末、
僕は笑顔を取り戻し、
その場所には、
ネジだけが静かに転がっていた。ある日、
彼女がぽつりと聞いた。「ねえ、バミューダトライアングルって知ってる?」
いろんなものが行方不明になる場所。
原因は——
海底の都市が守るために張ったバリア。
それが空まで突き抜けて、
飛行機を墜落させるんだって。僕は、はっとした。
その“バリア”こそが、
自分の中に張り巡らせた“理想”だったのかもしれない。ちゃんと笑っててほしい。
ちゃんと楽しそうでいてほしい。
ちゃんと、ちゃんと、ちゃんと。でも——
「ありのまま」を、
どこかで受け入れられていなかったのは僕だった。だから決めた。
彼女のままで、全部受け入れると。すると、
まぶたを閉じた奥に、
あの笑顔が、ちゃんと戻ってきた。静かに、でも確かに——
彼女はそこにいた。そして今も、
そっと目を閉じれば、
その笑顔が、
波のように胸に広がっていく。