写メ投稿
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2025-05-28
帽子と茶色と、苦い砂糖
あの頃、
仲間たちと笑いあった日々の隅で、
いつも少しだけ、距離を置いていた彼女。
帽子がよく似合って、
小柄な身体に、
透けるような茶色の瞳。
おとなしくて、
けれどその瞳の奥には、
誰も読めない深さがあった。
気づけば会わなくなっていた。
同じ場所で、違う方向を向くようになっていたから。
それでも──
季節が何度もめぐったある日、
「久しぶりに遊ばない?」と、あの子から届いた一通のメッセージ。
鼓動が跳ねた。
予想もしてなかった名前が、画面に光っていた。
会ってみると、
彼女は変わらず彼女のままで、
でも、大人びた雰囲気と洗練された仕草が
無意識に僕の目を惹きつけていた。
視線の隙間に、ふと香る色気。
言葉の合間に滲む柔らかさ。
指先の動きが、グラスの縁をなぞるたび、
どこかくすぐられるような感覚があった。
洒落た街のカフェで話すうち、
彼女が今、経営者としていくつもの事業を手がけていることを知った。
僕はまだ、会社という檻の中。
その差は、想像以上に遠かった。
でも、不思議と悔しさはなかった。
夜になって入ったレストランで、
彼女はワインを、僕は少し甘めのカクテルを頼んだ。
グラス越しに見つめられたとき、
ふと、肌の内側が熱を帯びた気がした。
そのお酒は、
子どもの頃にはわからなかった自由の味がした。
ほんのりと、苦くて甘い、
大人の夢みたいな味。
彼女は、軽やかに笑っていた。
決して誰かと比べず、
自分の“好き”を信じて選び続けた人の笑顔だった。
あの夜──
僕の心に、
誰にも気づかれず灯った火がある。
「自分のまま、生きていいんだ」
そう思わせてくれた彼女は、
もしかしたら、
夜に舞い降りた、帽子をかぶった自由の精だったのかもしれない。
ほんのり甘く、でも確かに苦い——
そんな砂糖のような記憶を、僕に残して。