写メ投稿
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2025-05-21
シャッターとノイズと、ハッピーターン
“写真、撮ってみませんか?”
そんなメッセージが届いたのは、
遠く離れた街で、
自分の気持ちにふたをしながら、
ただ毎日をやり過ごしていた頃だった。
どこか夢のような誘いだったけれど、
“面白そう”という気配に、
少しだけ心がゆるんだ。
静かな公園で待っていたのは、
小さくて可愛らしい、カメラを抱えた彼女。
撮られるのは初めてだった。
でも、彼女のレンズ越しの僕は、
いつもより呼吸が深くて、
ほんの少し、素直だった。
シャッターが切られるたびに、
心の中のノイズが、ゆっくりと消えていく。
ふとした仕草や視線の熱まで、
すくい取られていく感覚が、心地よかった。
その日を境に、
自分の輪郭が少しだけ、はっきりと見えるようになった気がした。
彼女の写真には、
柔らかい静けさと、
どこかあたたかい余白があった。
数か月が経ち、
僕はようやく願いを叶え、
あの街を離れることになった。
深夜のバス。
彼女は、夜遅くにもかかわらず見送りに来てくれた。
別れ際、手渡されたのは、
少し湿った袋のハッピーターン。
飾り気のない、彼女らしいお土産だった。
あんなにもおいしくて、
あんなにも優しい味があるなんて――
あの夜、
僕の中の何かが、確かにほどけていった。
シャッターに刻まれた静かな時間と、
ノイズの消えた心。
そして、ハッピーターンのあたたかさ。
それは今も、僕の中で
静かに、生き続けている。