写メ投稿
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2025-05-03
剥がれ落ちた名画の夜に
幸せな時間は、
いつも音もなく、指のあいだからこぼれ落ちる。
だから僕は、振り返らずに歩き出す。
それが、君と僕の約束のように思えた。
あの一瞬だけ見せてくれた素顔。
柔らかなまなざしと、揺れる吐息。
まるで——
朝の窓辺にそっと差し込む光が
カーテン越しに滲む、あのやさしい時間のようで。
今日、君と重ねた時間は
僕の奥に眠っていた“僕以上の僕”を目覚めさせる。
言葉はいらなかった。
肌と肌が語り合い、
呼吸と鼓動が重なっていくたびに
理性が、少しずつ溶けてゆく。
土砂降りの心に差し出された
濡れたままのメッセージ。
迷いも戸惑いも、すべて抱きしめて、
ただ君が「ここにいる」という事実だけが
胸を、こんなにも満たしていく。
帰り道、
夜風にほどける涼しげなメロディ。
季節の境目をなぞるように、
僕の指先は、そっと君の輪郭をなぞっていた。
光よりもやさしく、
影よりもあたたかく、
ふと触れたその瞬間に
君の中で瞬く星座が見えた気がした。
剥がれ落ちた名画のように、
君の飾らない姿は
何よりも美しかった。
未来の地図なんて、白紙でいい。
君と描く“今”があれば、
その余白に、何度でも色を重ねられるから。
近づいて、離れて、
またいつか、静かに寄り添う。
僕はただ、
君の心がゆっくりとほぐれていくのを
そっと、そっと包む風でありたい。
そして、気づけば——
その風は、君の奥深くまで届いている。